戦争における「人殺し」の心理学

「教えてください。富野です」や「富野に訊け!」で富野監督が紹介してたんで読んでみました。……思ってた以上に凄い本でした。
簡単に説明すると、人間は本来人を殺すことに強烈な抵抗感がある生き物で、その人間に戦場で人殺しをさせる為に軍隊はどうしているのか、その結果どんな影響があるのかといったことが心理学的見地から書かれた本です。どうも人間って自分や仲間の命に危険が迫った時でさえ、相手を殺すことに抵抗を感じるそうなんですね。
ただ、同じ人殺しでも、相手の顔が見える近距離での殺しと、例えば空爆による大量殺人では、空爆の方が抵抗が遥かに少ないそうです。相手の姿が見えないぶん、自分が人殺しをしていないと自分を誤魔化せるんですね。だから、機械を介しての殺人(例えば戦車や戦艦の砲手とか)の方が抵抗が薄いんだそうです。ガンダムでいえば、アムロの「相手がザクなら人間じゃないんだ」って奴ですね。
それと、人を殺してしまった人間は、自分を正当化することで心理的負担を軽減するとのこと。例えば「命令だから」とか「正義の為の戦争だから」とか。後は相手を人間以下の存在と見下すとか。スペースノイドを見下すティターンズとか、ナチュラルを蔑視するコーディネイターの構図ですね。でも、ガンダムシリーズにおいてこの正当化の傾向が一番強いのはカミーユでしょう。「お前は生きていてはいけない人間なんだ」とか「出てこなければやられなかったのに」とか「お前のようなのがいるから戦いが終わらないんだ」とか、見事に相手のせいにしてるんですよね。そのくせ「オレは人殺しじゃない」って言い張りますし。多分そうでもしないと精神の均衡が保てなかったんでしょうが、ロザミアを自らの手で殺し、ジェリドから「俺はお前ほど人を殺しちゃいない」と指摘されたことで、自分を偽りきれなくなったところへカツやエマの死が重なり、ラストの精神崩壊へ繋がったんじゃないかという気がしてきました、この本を読んで。シロッコの道連れ発言はあくまで最後のひと押しに過ぎなかったんでしょうね。
まあ、中には生まれつき人殺しに抵抗感のない人間もいるそうですが(大体2%ぐらいの割合だそうです)ヤザンとかギンガナムとかはそういうタイプの人間でしょう。
とまあ、ガンダムに当てはめて考えるだけでもこれだけ深く考えさせられる本です。小説で軍人や殺人者の心理描写をリアルに描きたい人は必読の本だと思います。反戦とか戦争賛美とかを超越したところで戦争というものについて考えるきっかけを与えてくれます。ちょっと厚くて読むのには気合がいりますし、文庫本なのに1500円もしたりしますし、ちくま文芸文庫という普通の本屋にはあまり置いてないシリーズだったりしますが、お薦めです。